<第一回> 「キャリタス就活」のリブランディング、成功の裏側にあったブランド戦略(UAV)とは?
株式会社キャリタス(旧:株式会社ディスコ)は、さらなる事業成長をめざすマーケティング改革の一環として、2023年4月に主力サービスである「キャリタス就活」のリブランディングを実施しました。その顧客戦略の策定から実行までを支援したのが、Bloom&Co.です。
プロジェクトを指揮した株式会社キャリタス執行役員CMOの毛塚友也氏と、支援にあたったBloom&Co.の豊浦仁子氏、永延葉月氏が、取り組みの成果やリブランディングの成功要因について振り返りました。
*<第一回> 「キャリタス就活」のリブランディング、成功の裏側にあった顧客戦略とは?
*<第二回> 「キャリタス就活」の成功に学ぶ、一貫性のある戦略と実行の秘訣
豊浦:キャリタスさんとの取り組みが始まったのは、2022年の年末でした。学生向け就職情報サービス「キャリタス就活」のリブランディングに取り組むことにされた経緯について、改めてお聞かせいただけますか?
「キャリタス就活」リブランディングの背景
毛塚:2022年10月に当社はジャフコ グループ株式会社と資本提携を行い、それを機にマーケティング戦略の再構築を始めました。その取り組みのひとつが、主力サービスである「キャリタス就活」のリブランディングです。
そもそも就職情報サービス市場は、利用者の多くを占める大学の在学者数が過去最多※となる中、競合との激しい競争にさらされています。マクロ、ミクロの様々な要因を踏まえると、「キャリタス就活」を学生にとってさらに有用なサービスへと進化させることが必須でした。
「キャリタス就活」の課題は競争優位性のブラッシュアップでしたが、ブランドの一貫性が十分でないという問題がありました。
当時「キャリタス就活」に専門のマーケティング組織は存在せず、営業部門や企画部門など各部門に委ねる形で運営が行われていたのが要因でもありました。
そのやり方は、サービスに柔軟性を持たせ、新しいアイデアを取り入れやすい環境を作るには効果的でした。一方で、サービス価値や強みに対する認識がばらばらになりやすく持続的にブラッシュアップしづらい状態となり、結果として「キャリタス就活」本来のポテンシャルを、会社全体で十分に活かしきれない状況がありました。
そのような背景もあり、マーケティング戦略の大きな方向性としてブランディングによって「キャリタス就活」のサービス価値を明確化しブラッシュアップすることで、市場での競争力を高めることを目指しました。
戦略策定から実行まで素早く出来た秘訣
豊浦:ブランドリニューアルの発表は2023年4月と決まっていて、準備期間はわずか5ヵ月しかありませんでした。しかし、キャリタスの皆さんが既存の就活メディアを超えるという共通の目標を持っていたことが、プロジェクトを推進する力となりました。
毛塚:確かにマーケティング戦略の再構築とリブランディングを同時に進める必要があり、時間的な余裕が本当にありませんでした。それでもインサイトの理解やサービス価値の定義をしっかりと行い、コミュニケーション設計やクリエイティブに反映できたのは、Bloom&Co.さんのサポートがあったからこそだと思っています。
豊浦:各部門の担当者が定例ミーティングに積極的に参加してくれたことも、取り組みを成功に導く要因の1つだったと考えています。ブランドに関わる様々な部署の方たちとインサイト調査(定性調査)に取り組んだことで、顧客に対する共通理解が生まれましたし、UAV(顧客に選ばれ続ける価値)のフレームワークを活用することで、部門を超えた共通言語を形成することができました。毛塚さんのリーダーシップにより、効果的に社内の巻き込みを図れたことが、戦略策定後のスムーズな実行につながりました。
毛塚:2023年に私がキャリタスへCMOとして加わり、最初に取り組もうと考えていたのが、マーケティングの基本方針を定めることです。新たに飛び込んだ環境で、本当にそれを実現していけるのか不安もありましたが、Bloom&Co.のサポートやキャリタスの優秀なメンバーのおかげで、自分が描いていたことを最短距離で進めることができました。
会社の今後にも関わる大きなプレッシャーがあるなかで、マーケティングのプロフェッショナルである皆さんと、ときには意見をぶつけ合いながら本気で議論できたことは、私にとって大きな刺激でしたし、マーケティングの意識を社内に根付かせるうえでも非常に有意義なプロセスだったと振り返っています。
永延:私たちはマーケティングの専門家としての自負を持っていますが、業界特有の知識やノウハウについては、クライアントである皆さんの方が豊富なことが多いです。毛塚さんの長年にわたる人材業界におけるマーケティング経験を共有していただけたことで、さらに深い議論ができ、良い施策につながりました。
毛塚:基本方針を立てる過程で「これから新しいことに挑戦するんだ」という雰囲気を会社全体に広められたのも良かったですね。Bloom&Co.の支援のもと、最初にTAM(Total Available Marketの略。ある市場で見込める最大の市場規模)や、SAM(Serviceable Available Marketの略。ある事業が目指しうる最大の市場規模)の分析はもちろん、当社の現場担当者を巻き込んで市場分析を進めていってもらえたことが、自分達の意思決定に自信を持つことにつながり、その後のプロセスでも不安や疑問が生じることはほとんどありませんでした。
「キャリタス就活」が学生から評価されている理由
永延:振り返るとUAVの開発が始まってすぐのころは、競合サービスと比較するあまり、自社の強みを明確にしきれていない様子もありました。しかし、インサイト調査の結果、学生たちから「使いやすさ」や「寄り添う」姿勢が高く評価されていることがわかり、「キャリタス就活」の強みを社員の皆さんが再認識できるようになりました。さらに、社内で進めていたリニューアルの方向性も間違っていないこともその調査結果からわかり、自信につながったように思います。
毛塚:実は、当社の営業部門はお客様に寄り添い、徹底的にサポートすることで信頼を築いてきた過去がありました。しかし、その価値を社内では言語化できておらず、理解が十分浸透していませんでした。今回、UAVを策定することで、社内の共通認識の醸成が出来ただけでなく、社長をはじめとする役員陣と自社の強みを再確認する機会を持てたのも大きな収穫だったと振り返っています。
豊浦:インサイト調査の結果、学生たちは就活に対して強い不安を抱え、「何から始めていいのか分からない」、「友人にも本音で相談できない」、「選考に落ちた理由が分からず不安を抱え続けている」といった問題を持っていることが明らかになりました。ペインポイントの解像度が上がり、「キャリタス就活」として、どう寄り添うべきかもより明確になったと思います。
毛塚:そうですね。最初のインサイトの整理がとても大事で、それにしっかり取り組めたことが、今の施策にもつながっていると感じます。
UAVの策定により、CPA20%改善など成果を実現
豊浦:リブランディングに取り組んだ結果、どのような成果が得られましたか? 特に、UAVを見い出したことで、どのような変化や効果があったか教えてください。
毛塚:リブランディング後に展開した各種広告はUAVを反映した内容で制作しました。リサーチをかけて広告を見た印象を調査したのですが、非常に高いサービス利用意向や広告好感度を得ている事がわかりました。
また、実際に広告を展開した結果、1年で目標としていた会員獲得のCPAが20%以上も下がり、大幅に改善しました。インターンシップ等への申し込みのコンバージョンも目標に対して120%以上で推移するなど様々な形で成果につながっています。
駅中に展開されているキャリタス就活の広告を気に入って、当社の求人に応募してくれる学生が現れたり、「自分が関わっているサービスの広告だよ」とわざわざ自分のご両親にに報告してくれる当社の新卒社員がいたりと、UAVを明確にし、ブランドの一貫性を担保することによって様々なエンゲージメントが生まれていると実感しています。
豊浦:素晴らしい成果ですね。数字でも肌感としても高い成果を得られるのは、一緒に新しい「キャリタス就活」をつくりあげてきたチームの一員として、私たちもとても嬉しく思います。
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毛塚さん、豊浦さん、永延さんによる対談シリーズ。全二回中、第一回目の今回は、「キャリタス就活」のリブランディングにおけるUAV策定の過程やその成果について詳しくご紹介しました。次回はさらに、UAVに基づいた顧客戦略を、どのように一貫した実行へと結びつけたのか、そのポイントを詳しく掘り下げます。