顧客インサイトの理解に基づくBtoBマーケティング

マーケティングといえばBtoCというイメージを持つ企業も多い。Bloom&Co.のアドバイザリメンバーの中でも、BtoBビジネスのマーケティング支援に幅広い知識と実績を持つ金と、顧客調査に高い専門性をもつ荒尾に、成果をあげるためのBtoBマーケティングについて聞いた。

誤解が多いBtoBのマーケティング

ー顧客インサイト起点のマーケティングというと、BtoCのイメージがありますが、BtoBビジネスにおいても有効ですか?

:もちろんです。BtoBマーケティングもBtoCマーケティングも本質的な考え方は変わりません。なぜなら、顧客が存在し、その顧客に数ある選択肢の中から、自社の製品やサービスを選んで買ってもらうというビジネスの原理は同じだからです。

ですから、顧客の意思決定に至る思考過程と、インサイトを理解するというマーケティングの根幹も同じです。BtoCでもBtoBでも本質的なマーケティングは、顧客のインサイト理解に基づき、自社が打ち出すべきUAV(顧客に選ばれ続ける価値)を開発して訴求することに尽きます。

しかし、BtoB企業の多くが、短期的な顧客リスト開拓のための「リード獲得手段」にばかり注力し、「自社の強みと顧客インサイトの理解に基づくUAVの開発」には着手できていないんです。

目先の数字にとらわれ、中長期的な成長を目指せなくなってしまうので、もったいないことだと感じています。

デジタル化が進み、マーケティングの重要性が上がっている


ーなぜ、BtoBではマーケティングが重要視されて来なかったのでしょうか?

:BtoB企業とBtoC企業において、これまで「営業」が担ってきた役割の違いが、理由のひとつとして挙げられます。BtoC商材の多くは、「営業」と接することなく店舗やECで購入されます。対してBtoBの商材は、営業が顧客企業に足を運び、製品・サービスを認知・理解してもらい、成約まで導くというプロセスがスタンダード。顧客の意思決定プロセスに占める営業の役割が大きいのです。

そのため、営業のメンバーが、「自分たちが顧客のことを一番わかっている」「自分たちが売上を作っている」という自負を持っていて、マーケティングと営業が対等の関係ではなかったり、組織の分断が起きているケースも少なくありません。

「営業」がとにかく重要で、マーケティング組織は必須ではないと考え、マーケティング業務を広告代理店に任せている企業もいらっしゃいます。

荒尾:そうですね。しかし、近年はデジタル化が進み、BtoB企業においても顧客とのタッチポイントが格段に増えました。

デジタル広告、ウェブサイト、オンラインセミナーなど、営業が関与しないタッチポイントのバリエーションも多くなり、商談に至るまでのプロセスがどんどん複雑になっています。BtoBマーケティングのアプローチを、アップデートする必要がでてきていますね。

またBtoBマーケティングが重要視されて来なかったもうひとつの理由として、BtoBの商材の意思決定プロセスの複雑さが挙げられます。

BtoC商材の場合は、「美味しそう」「着心地が良さそう」「値段がお手頃」など、基本的に本人が直感的に意思決定することが多いのに対して、BtoBの商材は、ひとつの意思決定に関与する人物が多く、重視する意思決定要因も異なり、意思決定に時間もかかります。

また営業と顧客の関係値など、多様な要素に遮られ、マーケティング担当者に顧客のインサイトや意思決定要因が見えづらいケースも多々あります。

:荒尾さんの言う通りで、意思決定に関わる人が誰なのか、どういうことを考えているのかを実は理解できていないというケースも多いですね。

だから、BtoBのマーケティングでも、第一歩目は顧客を理解するところから。顧客を理解し、顧客インサイト起点のマーケティングを実施できれば、勝ち筋はぐんと上がります。

第一歩目は顧客の分析から。BtoBでも顧客調査は必要?できる?


ーBtoB企業の顧客のインサイトと意思決定プロセスの理解について詳しく教えてください。

:まず最初に実施するのは、ターゲットセグメントの策定です。提供している製品やサービスがUAVを提供できる企業群を特定しましょう。

そして次に、ターゲット企業群内の意思決定プロセスと意思決定要因の理解です。

BtoBの商材は、意思決定までに、平均5人以上の人が関わると言われています。そのため、それぞれの人の役割や、意思決定基準を分析していきます。

意思決定に関わる人は、大きく3つに分類できます。

まずは、推進者。推進者は、その製品やサービスが自社に必要だと感じた際、社内で稟議をあげる起点となる人物です。

そして、影響者。意思決定に影響を与える人です。例えば人事向けのシステムならば、人事のトップや、予算を管理する管理部門のトップ、システムの部門のトップなどが考えられます。

最後に、意思決定者。契約や導入の決裁権を持つ人です。

「導入して、全メンバーが使いこなせるか」「セキュリティは大丈夫か」「業務効率化になるのか」「費用対効果はあるか」など、推進者、影響者、意思決定者、それぞれの立場で、メリットに感じる部分と、障壁になる部分が異なるので、分析と理解が重要です。

調査設計が成否を分ける。調査をプロに委ねるメリットとは?


ーどのように分析していくのでしょうか?

荒尾:顧客インサイトの調査が有効です。原則、1on1の定性調査を行います。目的によっては定量のパネル調査を行う場合もあります。

定性調査の場合は、理想的なターゲット企業にお話をお聞きします。調査対象のサンプル数は5〜6社でも十分。まずは1社でもやってみましょうとお伝えしています。

調査で重要なのは、「調査の目的」と「誰に何を聞くのか」です。ここを外すと、表層的な回答や誤ったインサイトが集まって、結果として何も見えてこないのです。

:調査結果は、企業様の調査前の認識とは異なることが多いですよね。自社が選ばれる理由だと思っていないポイントで、実は支持されているということが度々あります。

荒尾:そうなんです。それは同時に、打ち出すメッセージが間違っていたということでもあります。顧客のインサイトを知ることで、自社の製品やサービスの良さ(UAV)をどう発信するかも変わります。

自社が選ばれる理由がわかると、広告のコピーも、セミナーで話す内容も自ずと決まっていきますし、全社で発信するメッセージに一貫性を持たせることができます。

また、調査で意外と盲点なのは「誰が聞くか」です。

:「営業チームやカスタマーサクセスチームとの日頃のやりとりで、顧客のことは十分わかっている」と考えている企業様も多いですが、そこに思い込みが生じてしまうこともあります。

荒尾:第三者がヒアリングをする方が、本音を話していただけることもありますよね。購入に至る思考のプロセスをひも解くためには、問いの立て方も重要。私たちのようなプロに頼っていただけると、本当の顧客インサイトが見えてくると思います。

:第三者が顧客インタビューを行うことで関係性に悪影響があるかもしれないと考える企業様もいらっしゃいますが、過去の経験では、顧客企業はとても協力的です。思わぬ意見を頂けて、顧客との関係がさらに良くなることもあり、いいことづくめです。

荒尾:お伝えしたように、精度の高い定性調査は、綿密な設計が肝。

しかし、最終的には、会社全体に「顧客の声を聞く文化」が根付くことが大切です。顧客インサイト起点のマーケティングが、社内で当たり前のものになることが理想的です。

ですから、プロジェクトで基礎を作り、顧客の声を聞くメリットを実感頂くことで、社内が変わっていくきっかけづくりができればと思っています。

成功の鍵は、部門を超えてメンバーを巻き込むこと


ーその他で事業成長の成否を分ける要因はありますか?

:チーム編成ですね。お伝えしてきた通り、特にBtoBでは、営業チームとマーケティングチームが一丸となり、協力しあえる環境が理想的です。

営業とマーケティングが分断しないように、横串のチーム編成にするなど、チームの体制が整っていれば、協力的な関係が生まれ、成果が早く出やすくなります。

荒尾:そのため、企業様へのご支援を開始する際に、プロジェクトに参加されるメンバーは必ず確認します。

企業様からは「どのメンバーまで参加してよいのか」というご質問を受けることもあります。大事なのは、意思決定者から戦略を実行に落とし込むためのメンバーまで、包括的に巻き込むことです。

戦略だけが優れていても、実行できないと絵に描いた餅になって終わってしまいます。マーケティング担当者だけでなく、営業やCS(カスタマーサクセス)など、実行する側の方々にもプロジェクトに入っていただくのが理想的です。

:BtoBの商材は、コンバージョン(成約)までのプロセスを、どこかの部署だけで完結できることはまずないんです。必ず、他の部署と協力する必要がある。ですから、広告のコミュニケーションと、営業資料や営業スクリプトなど、内容の粒度や深度は違えど一貫性が重要です。この一貫性をもって戦略から実行まで行えるチームを作れるかは、成功への鍵となります。

支援のご依頼をいただく際に、「何か事前に準備するものはありますか?」と聞かれることが多いのですが、事前にご準備いただくものは特にありません。皆様の課題感を共有して頂くことで、プロジェクトの全体感がつかめます。

うまく回りだすと売り上げが成長するだけでなく、組織も活性化しますから、素晴らしいものです。もしも課題感をお持ちの企業様がいらっしゃったら、気軽にお声がけください。

(取材・文:井澤梓)

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