ファミリーマートCMO 足立氏とBloom&Co.代表 彌野が語る持続的な売上成長のために必要なこと
<第2回> 独自の価値を発掘する、真の顧客理解
P&Gなど、複数の企業を経て、日本マクドナルドでは「グランドビッグマック」、ナイアンティック社では「Pokemon GO」のキャンペーンなどを仕掛け、業績に大きく貢献した足立光氏。2020年10月からはファミリーマート初のCMOに就任し、「ファミマル」ブランドを立ち上げるなど、数々のヒット商品を生み出し、既存店日商が26ヶ月連続(2023年10月末時点)で前年比超えの好調を牽引している。
一方のBloom&Co.代表の彌野泰弘は、P&GにてSK-IIなどのマーケティングを担当し、DeNAで執行役員を務めた後、2015年にBloom&Co.を設立。スマホアプリから太陽光発電まで100社以上のさまざまな業種に応用できる独自のマーケティングフレームワークを開発・進化させ、マーケティング戦略の策定から戦略の実行まで伴走型の支援を行っている。
第二回では、「他社との本質的な差別化」を生み出すために、自社の強みの発掘方法、そしてその展開方法について意見を交わした。
弱みだということも視点を変えれば強みになる。自社独自の価値を発掘するには
――では、自社独自の価値を見出すには、どのようなプロセスや考え方が必要なのでしょうか。
彌野:自社にとっては当たり前すぎて「大したことではない」と思っていることこそが、実は他社にはない強みになるかもしれません。個人の強みも、自分自身では気づけないもので、周囲の人に尋ねた方がくっきりと認識できることがあります。自社の独自の価値も同様で、自社だと長年やっていることは当たり前に感じてしまい、なかなか価値を見いだせないため、第三者から客観的に判断してもらうことが近道です。
「自分(自社)と、先行する他者(他社)とのギャップは全て弱みだ」と思ってしまうのも、これまたよくある人間心理です。しかし、捉え方によっては弱みだけど、見方を変えれば強みになることはよくあります。ご相談に来られる企業は、売上成長に苦心されていることもあり「うちには強みがない、何をやってもうまくいかない」とネガティブな思考に陥ってしまっていることもあります。そこで私たちは、事業目標と顧客の理解からぐるっと見方を変え、「実は弱みと思われているそれが強みになります」とお話することがあります。実際その強みが、結果的にお客様にとっての唯一無二の独自価値へ昇華されることはよくあります。
足立:全く同じものだけど、見せ方を変える、一見して弱いところを強みにしてしまうというのは私もよくやる手法です。ファミリーマートでも見せ方を変えることでお客様の価値へ昇華した例があります。「ファミマのボトルキープ」です。サービスの中身は、「自社アプリ内でペットボトル飲料を24本分購入すれば5本分お得になる」という回数券ですが、違う見せ方、違うブランディングをすることで、同じ商材でも新しい価値に変わります。ときに「商品やサービスが変わらないから新しいことはできない」というマーケ担当者がいますが、それは言い訳であり怠慢だと思います。
彌野:足立さんがいつもお上手だなと思うのは、キャッチーでついつい気になるネーミングや企画にされるところです。足立さんらしさがあるなと感心します。
足立:「“ボトルキープ”なんて、お酒に聞こえるじゃないか」と社内からはダメ出しを食らいかけたんですけど、お酒に聞こえるというその違和感こそが大切なんですよね(笑)。大半の商材は広告を打てないので、消費者に選ばれるためには、ネーミングやパッケージ「だけ」でその商材の特徴を伝えなければいけない。「広告をどう差別化するか」の以前に、そもそもの商品自体のコンセプトやネーミング、パッケージ、オンラインサイトに表示されるコピー1~2行を、頭から血が出るほど考え抜くべきだと思います(笑)。
彌野:確かに、広告を大量に打てない商品は多くありますし、もし広告を打てたとしても永遠に打ち続けられることもほぼありませんからね。そうなると究極的には、ネーミングやパッケージ、キャッチコピーが実質、その商品の広告になり続けるということ。同じ商品でもそれらを変えるだけで、全く違う商品になりますよね。
ターゲットは「丸の内で働く人」でOK?真の顧客理解に基づくターゲット設定を
――競合が真似られない自社独自の強みを見出すうえでは、真の顧客理解が重要になると思います。顧客分析については、どのように取り組んでいますか。
彌野 :多くのマス商材の顧客は、山手線の外にいることが多い一方で、マーケティングのプランニングをしている会社は、山手線圏内にあることが多く、ターゲットを安易に「丸の内で働く人」などにしてしまいがちです。日本全国の中で丸の内で働く人の割合は極めて少ないですし、多くの売上を持つ顧客は東京の山手線外にいるにも関わらずです。つまり、プランニングする人がマス感覚を持ってないケースがあるため、顧客の感覚を正しく持ち、顧客感覚と自己感覚をちゃんと調整させること、そして製品開発部門の方から広告部門、営業部門の方まで、製品やブランドに関わる全員が同じ顧客理解を持つことが重要です。
足立:ファミリーマートは、小さなお子様からシニアまでご来店いただき、北海道から沖縄まで全国展開しているので、都内に住んでる人だけがターゲットではありません。全国で売りたいならば、日本のマジョリティを捉えなくてはいけない。私が社内でよく言ってるのは、具体的な1人の人物像を伝えて、たとえば「長崎県島原の24歳男性で、個人事業主、子供2人の4人家族」に受けるものを考えるようにということ。また、あらゆる人を想定するという意図では、看板やポスターの色や表現は、色覚が弱い方でもきちんとご覧いただけるように、ユニバーサル・デザインを採用しています。全ての方に伝わりやすくて響くものを考えていくならば、間違いなく目黒区や渋谷区で響くものではありません。もちろん港区でもありません(笑)。
「天皇御用達」は、今で言うところのインフルエンサーマーケティング。新しいマーケティング用語が、新しいマーケティング手法とは限らない。
――最後に、これからのマーケティング施策において重要な考え方とはどのようなものか、まとめをお願いします。
足立:一般的に考えられているマーケティング(販促・コミュニケーション)だけではなく、本来のマーケティングである事業全体(4P+C)を俯瞰せよ、ですかね。販促やコミュニケーションだけで解決しようとするのではなく、たとえ自分の部署以外の権限だとしても、事業全体を見る経営者視点で、根本的に3Cや4Pを見直すつもりで、どんどんアプローチして変えていくべきです。
そして、コミュニケーションといっても、デジタルからマスまで様々あります。コミュニケーションの領域も俯瞰したうえで、デジタルからマスまで、横串で一貫性を持ちながら、本当にその商材・目的に効果的なのはどのメディアなのかを考え抜いてほしいですね。そうしなければ、自分の守備範囲だけであれこれやっても、努力が徒労に終わってしまいがちです。マーケティングを超えた事業全体の俯瞰と、コミュニケーション領域での様々な手法の俯瞰、この2つを忘れないでほしいです。
彌野:足立さんは自分のことをマーケターとは言わないですよね。私もマーケターという言葉を使わないんですが、その理由は今お話されたことに近い部分かもしれません。重要なことは、商売として、何が重要なのか、商売をする相手(顧客)は誰なのか、この顧客は何にお金を払うのかから考えること。認知や好感度ではなく、事業として「売上」からの視点と「お客様(顧客)」からの視点の両輪を持つことが重要です。売上・利益を伸ばさなければ企業は存続できないし、お客様視点だけだと究極的には慈善団体になってしまう。お客様のニーズと事業のニーズ(売上・利益)の間をつないで、合理性や整合性を作るのが「マーケティング」です。しかし同時に、マーケティングは手法でしかないので、手法を目的化して、手法に溺れないことが大事だと思います。
足立:あと最近、「パーパスを作りたいんです」という相談を受けるんですよ。そんなとき「事業をやってるんだから、パーパスは、そもそもあるものですよね。今から作るっておかしくない?」ってコメントすることが多いです(笑)。それに、パーパスを作ったら、会社の方針などの整合性は揃うかもしれないけど、だからといって、必ずしも売れるわけではない。マーケティングの人たちは、パーパスだけに心をとらわれるんじゃなくて、商品やサービスをどうやってお客様に買って頂くかの基本についても、きちんと考えてほしいですね。
マーケティング業界では、常に新しい言葉が出てきますが、ほとんどの場合、本質的には新しくありません。マーケティング3.0や4.0、パーパスなんて言っていますが、日本には、昔から「三方よし」という言葉があります。サブスクも、新聞購読は何十年も前からサブスクですよね。インフルエンサー・マーケティングなんて、そもそも大昔から「天皇御用達」「天皇がお泊りになった宿」という、超パワフルなインフルエンサー・マーケティングがあります。新しい言葉に踊らされず、事業や顧客の視点で、本当に必要なものは何かを考えることが大事だと思います。
真の顧客理解とUAV(独自価値)の発掘方法、その展開方法までを第二回ではご紹介しました。
第三回では、マネジメントの心得と共通言語についてお届けします。
聞き手は・・・堤 美佳子 ライター・編集者・記者。『Forbes JAPAN』『宣伝会議』などビジネス誌を中心にインタビュー記事などを担当。