ファミリーマートCMO 足立氏とBloom&Co.代表 彌野が語る持続的な売上成長のために必要なこと

<第三回>マネジメントの心得と共通言語

P&Gなど、複数の企業を経て、日本マクドナルドでは「グランドビッグマック」、ナイアンティック社では「Pokemon GO」のキャンペーンなどを仕掛け、業績に大きく貢献した足立光氏。2020年10月からはファミリーマート初のCMOに就任し、「ファミマル」ブランドを立ち上げるなど、数々のヒット商品を生み出し、既存店日商が27ヶ月連続(2023年11月末時点)で前年比超えの好調を牽引している。

一方のBloom&Co.代表の彌野泰弘は、P&GにてSK-IIなどのマーケティングを担当し、DeNAで執行役員マーケティング本部長を務めた後、2015年にBloom&Co.を設立。スマホアプリから太陽光発電まで100社以上の様々な業種や商材に応用できる独自のマーケティングフレームワークを開発・進化させ、マーケティング戦略の策定から戦略の実行まで伴走型の支援を行っている。

第三回では、マーケティングにおいてマネジメント層が心得ておくべきことや、組織内での共通言語の重要性などを中心に議論した。

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持続的な売上成長を実現させるための 経営層の心得

――「これまでお話しいただいたテーマは「他社との本質的な差別化」でしたが、持続的な売上成長を実現するための重要なポイントは他にありますか?

足立:これまで持続的な成長に重要な3つの要素として「事業全体を俯瞰して見ること」、「独自価値を伝えること」、「再現性を重視すること」をお話ししてきましたが、もう1つ重要なことがあります。それは「経営層の心得」です。持続的な成長ができない責任は究極的にはマネジメントにあるため、経営者がそれを「自分の責務だ」と考え、「自らが変わる」また「自らが成長する」ように主体的に変革の指揮をとることが大切です。意外と企業が成長しない理由を部下や競合のせいにする人が多いんですよね。


彌野:
経営に必要な経験や能力と、マーケティングに必要な経験や能力は完全一致しません。マーケティングの経験だけで経営ができるわけではなく、経営層がマーケティングの経験や知識が豊富とは限りません。足立さんは事業会社で、CMOとしてマーケティングを担当されていますが、事業会社がマーケティングを強化するためには、どういった変化や意識の改革が必要だと思われますか?


足立:
2パターンしかないと思っています。一つは、自分たちで一生懸命勉強して変わろうとする経営層。具体的には、異なる視点を持つ人をアドバイザーや役員として迎え入れ、学びながら変革を進めようとします。Bloom&Co.はこのタイプの企業をサポートされていますね。もう一つは、専門分野については、その分野に明るい人に判断を任せる経営層。私は、この任される専門家ですね。経営層の人たちが、広告を含めたマーケティングに関して的確な判断ができないのは当然です。なぜなら、自分が手がけてこなかった領域だから。なかなか勇気がいることですが、「わからない人が判断しない」 という当たり前のことが、結構大事です。

ただ、「人に任せる」とは「広告代理店に丸投げしよう」という話ではありません。それでは自分たちでグリップできませんし、再現性もない。代理店の提案通り有名人を起用して大きく広告費もかけたのにどうして売上が上がらないんだ?ではダメで、自分たちが何をすべきかを理解し、その上で外部パートナーに効果的に実行してもらうのです。そのためには、自社側にマーケティングを理解する人を置き、その人がグリップを握って戦略を再現性のある形で実行する必要があります。

彌野:再現性と持続性を高めるために、私たちはUAV™️(独自価値)を中心に据えることを大切にしています。そもそもUAV™️は、他社は真似しにくく、自社では楽に再現・持続化しやすいものです。なぜなら自社の強みに立脚しているから。Bloom&Co.では、ご支援先の企業がUAV™️を重視したマーケティングケイパビリティを持つことを目指しています。UAV™️に基づく顧客戦略の策定から施策実行まで自社で回せるようになることはとても大事です。社内のケイパビリティ構築も、社外の優秀なチームを含めたケイパビリティ強化も、持続的に再現性を持ってUAV™️を潜在顧客に伝達し提供するために重要です。

共通言語は組織を流れる“血液”

――再現性を持って効果の高い施策を組織で横展開していくにあたっては、UAV™️のような「共通言語」があることが重要だと思います。組織内の共通言語についてどのように捉えていますか。

足立:「UAV™️(独自価値)」のように、「これが自社の特長だ」ということをわかりやすく明文化することはとても大事だと思います。いわゆる「言語化」です。マーケティングにおけるコミュニケーション上での最大のリスクは、社長やマーケティング本部長が代わったタイミングです。新任者は自分たちの足跡を残そうとして、しばしばメッセージを変えがちですが、それは誤りです。トップが代わっても、会社としては一貫して同じことを言い続ける必要があります。そのためにも、皆がわかりやすい言葉を使うことが重要です。

例えば、「ファミリーマートはクラスの人気者」という共通認識があります。「クラスの人気者」は面白くてみんなから好かれるような存在になる、というイメージを表した言葉です。40周年(2021年)の際には、お客様に持っていただきたいイメージを言語化した5つのキーワード(①もっと美味しく、②たのしいおトク、③「あなた」のうれしい、④食の安全・安心、地球にもやさしい、⑤わくわく働けるお店)をつくりましたが、現在も継続して掲げています。言葉をつくるだけでなく、浸透させてきちんと継続していくことも大事なポイントですね。

彌野:会社を大きなシステム、各部署をシステムを構成するパーツとして考えると、共通言語は血液にあたります。各パーツが連携をしながら動いていても、血液が流れていなければシステムは動かなくなってしまう。つまり、共通言語が無ければ、どこかにボトルネックができ物事がスムーズに進まなくなります。

共通言語は、“用語”だけではなく、共通する“プロセス”や“フレームワーク”の存在も非常に重要です。基本的に、ロジカルに考える人が、同じ情報を処理すれば、同じ結果を得ることができます。同じ情報がインプットとして入れば、同じアウトプットが出てきます。一定の質を担保したアウトプットを生み出すことができるのが、プロセスとフレームワークです。これらが、再現性を持った、クオリティの高いアウトプットを出すためには大事なツールとなります。そこに正しい顧客理解が入れば、戦略的に80点以上と言える「正解」が再現性を持って量産できます。

私たちがご支援する企業には、私たちが抜けた後でも再現性を持って自走できるケイパビリティをお持ちいただきたいと考えています。そのためにはまず「顧客インサイト起点で正しいと考える」とはどういうものかを示すことが必須です。まずは、顧客インサイト起点で、良い結果を出すプロジェクトを共に作り、その後の基準となる好例をひとつ生み出す。それを成功体験として感覚として掴んでから、再現性を持たせるために、テンプレート化して運用していくことが重要だと考えています。

プロダクトアウトの会社こそ伸びしろがある。UAV™️(独自価値)の発掘でさらなる成長を

――最後の総括として彌野さんに伺います。どのような業種・業態や規模、またどのような課題を抱えている企業にとって、UAV™️(独自価値)を発掘する重要度が高いとお考えでしょうか。

彌野:一言で言うと、これまでプロダクトアウトで事業成長を実現してきた会社です。プロダクトアウトは、決して悪いことではありません。我々のご支援先には、数千億円の売上があっても「マーケティングが不得意です。困っています」とおっしゃる企業もありますが、それほどの売上が生み出せているのは良いプロダクトがあるからです。マーケティングだけでは数千億円の売上には到達できませんからね。ただ、そこからさらに2倍、3倍へと引き上げていくためには、顧客インサイトから生み出すUAV™️の発掘が重要だと思います。

また、「これまで数十年、事業成長を続けてきたけれど、成長が鈍化してきたな」という企業こそ、是非、自社のUAV™️(独自価値)の発掘をお勧めします。すでに売上が数千億円もある会社は、創業者自身が解像度の高い顧客理解やマーケティングの感覚を持ち、トップダウンで優れた商品を生み出してきたからこそ、そこまでの成功を収めて来られたのだと思います。しかし、創業者と顧客でライフスタイルや年齢が離れてくると、ヒット商品を生み出すのが難しくなります。創業者の属人的な能力やセンスに依存せず、組織としてヒット商品を生み出すために、会社の仕組みとして、マーケティング活動をフレームワーク化していけば、カリスマオーナーの感覚を100点としたときに、100点とは言わずとも80点ぐらいの成果を再現性を持って生み出すことを目指せると良いのではないでしょうか。

聞き手は・・・堤 美佳子 ライター・編集者・記者。『Forbes JAPAN』『宣伝会議』などビジネス誌を中心にインタビュー記事などを担当。

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